2011年12月15日木曜日

行軍篇・ささいな兆候

_敵が近くにいて静観しているのは、守りの固いことに自信
があるからだ。
 遠くにいて戦いの挑発をするのは、主導権を握ろうとする
ためだ。
 布陣した場所で余裕があるのは、有利だからだ。
 木々が不自然に動くのは、生き物の存在がある。
 草木が放置され、行く手を妨げられるのは、疑ったほうが
いい。
 鳥が突然、逃げるように飛び立つのは、待ち伏せかもしれ
ない。
 獣が逃げまどっているのは、退き帰らせようとしているのか
もしれない。
 土煙が、
 高く勢いがあるのは、馬車が移動しているかもしれない。
 低くて広範囲なのは、歩いているものが移動しているかも
しれない。
 散らばって四方にのびているのは、雑木を集めているかも
しれない。
 少ないが行き来しているようなのは、布陣をしようとしてい
るかもしれない。

 交渉をはぐらかして守備に専念していると言うのは、進軍
してくる可能性がある。
 交渉が強引で、進軍をほのめかすのは、退却する可能性
がある。
 貨物車を前面に配置して警戒しているのは、布陣をしてい
る可能性がある。
 不意に使者がやって来て、和平交渉を申し出るのは、計
略の可能性がある。
 忙しく走り回り、戦車を配置しているのは、覚悟を決めた
可能性がある。
 攻撃して来たり、退却したりを繰り返すのは、誘導しようと
している可能性がある。

※これらはあくまでも憶測で、疑えばきりがない。
 こうしたささいな事にも気をくばり、最終的には自分で調べ
て確かめる。
 戦争すると決めたからには、自分たちが主導権を握って
行動する。
 仮に罠があったとしても、あえてそれにひっかかることで、
有利に展開するように備えておく。


敵近くして静かなるはその険を恃(たの)めばなり。
遠くして戦いを挑むは、人の進むを欲するなり。
その居る所の易なるは、利なればなり。
衆樹の動くは、来たるなり。
衆草の障多きは、疑なり。
鳥の起(た)つは、伏なり。
獣の駭(おどろ)くは、覆なり。
塵高くして鋭きは、車の来たるなり。
卑くして広きは、徒の来たるなり。
散じて条達(じょうたつ)するは、樵採(しょうさい)するなり。
少なくして往来するは、軍を営(いとな)むなり。

辞(ことば)卑くして備えを益すは、進むなり。
辞(ことば)疆(つよ)くして進駆(しんく)するは、退くなり。
軽車まず出(い)でてその側に居るは、陳するなり。
約なくして和を請うは、謀るなり。
奔走して兵車を陳(つら)ぬるは、期するなり。
半進半退するは、誘うなり。

敵近而靜者、恃其險也
遠而挑戰者、欲人之進也
其所居易者、利也
衆樹動者、來也
衆草多障者、疑也
鳥起者、伏也
獸駭者、覆也
塵高而鋭者、車來也
卑而廣者、徒來也
散而條達者、樵採也
少而往來者、營軍也

辭卑而益備者、進也
辭疆而進驅者、退也
輕車先出居其側者、陳也
無約而請和者、謀也
奔走而陳兵車者、期也
半進半退者、誘也