2011年7月30日土曜日

謀攻篇・勝機を知る

 次の五つのことをもって勝機を知る。
 戦う相手なのか味方につける相手なのかを見分けら
れれば勝機がある。
 多数を相手にする場合と少数を相手にする場合の対
応の仕方が分かれば勝機がある。
 敵味方の政府と国民の欲しがっているものが分かれ
ば勝機がある。
 こちらが楽勝できる状態でも謀略により相手が自滅
するのを待つ余裕があれば勝機がある。
 補佐役が優秀で国民が口出しする必要がなければ
勝機がある。
 この五つが勝機を招いてくれる。
 これで分かるように、相手の言動を尊重した上で、こ
ちらの言動を通すことができれば、争っても禍根はない。
 相手の言動を尊重せず、こちらの言動を押し通せば、
どちらも傷つく。
 相手の言動を尊重せず、こちらも補佐役が民意を無
視して勝手に言動すれば、損害は計り知れない。

※この文章も「彼を知り己を知れば、百戦して殆(あや)
うからず」をそのまま解釈して、戦うことだけの意味と受
け取っては謀攻篇にそぐわない。
 孫子はどうすれば戦いを避けることができるかを解
いている。
 「将の能にして君の御(ぎょ)せざる者は勝つ」を一般
的には「将軍が優秀で君主が余計な干渉をしなければ
勝つ」と解釈されているが、将軍が優秀でも間違った言
動をしないとはかぎらない。
 暴走する危険性があるのだから常にチェックし、言動
を君主と同じにする必要がある。
 ただし、現場の状況は瞬時に変化するので、その時
の判断だけは将軍に任せるしかないだろう。
 将軍は君主の家臣でしかない。同じように補佐役(議
員や公務員)は国民に雇用されていることを忘れては
いけない。


ゆえに勝を知るに五あり。
もって戦うべきともって戦うべからざるとを知る者は勝
つ。
衆寡(しゅうか)の用を識る者は勝つ。
上下の欲を同じくする者は勝つ。
虞(ぐ)をもって不虞(ふぐ)を待つ者は勝つ。
将の能にして君の御(ぎょ)せざる者は勝つ。
この五者は勝を知るの道なり。
ゆえに曰く、彼を知り己を知れば、百戦して殆(あや)
うからず。
彼を知らずして己を知れば、一勝一負す。
彼を知らず己を知らざれば、戦うごとに必ず殆うし。

故知勝有五
知可以戰、與不可以戰者勝
識衆寡之用者勝
上下同欲者勝
以虞待不虞者勝
將能而君不御者勝
此五者知勝之道也
故曰、知彼知己者、百戰不殆
不知彼而知己、一勝一負
不知彼不知己、毎戰必殆

2011年7月23日土曜日

謀攻篇・補佐役

 議員や公務員は国民の補佐役である。
 補佐役が国民と共にあれば、国は強固になる。
 補佐役が国民と隔たりがあれば、国は弱体化する。
 そのため補佐役の能力として注意する点が三つある。
 行動する時ではないのに行動し、行動する必要があ
る時には、何もしない。
 これでは国民の足を引っ張ることになる。
 民意を分かっていないのに政治をすれば、国民は困
惑する。
 国民の権利を無視するが、あやまちの責任をとらな
いでは、国民は疑う。
 国民を困惑させ疑いをもたれるようでは、外交でも信
用されない。
 これでは国を衰退させることに力を注いでいるような
ものだ。

※この文章は一般的には君主と将軍の関係を記したも
のと解釈しているが、戦争ありきでは謀攻篇にはそぐわ
ない。
 現代の将は、議員や公務員と解釈すれば分かりやす
い。
 国民の存在しない国は成り立たない。しかし、議員や
公務員は、国民を無視して勝手に政治をやり、悪政を
しても責任はとらず、国民にすべての責任をなすりつけ
る。
 古代からこうした伝統(?)は続いている。
 それでも国民は議員は選挙で選ばれているのだから
国民の代表で、公務員は試験を受けて合格しているの
だから優秀だと錯覚している。
 公務員に選挙権があり、必ず誰かを選択しなければ
いけない選挙では、公務員に有利な無能な議員しか当
選しない。
 こうした単純な詐欺も見抜けない国民の無知こそが
諸悪の根源だ。
 公務員やその家族に選挙権を与えず、選挙では「該
当者なし」が選択できるようにして、当選者がいなけれ
ば、国民が直接政治をするのが本来の政治のありかた
だ。
 国民全員で政治をやって学ばない限り、どんな補佐
役が必要かは分からない。
 孫子は自分たちのことだけを言っているだけではなく、
敵についても同じだと言っているので、自分たちが注意
することは、敵を弱体化させることに利用できる。


それ将は国の輔(ほ)なり。
輔周(ほしゅう)なればすなわち国必ず強し。
輔隙(ほげき)あればすなわち国必ず弱し。
ゆえに君の軍に患うるゆえんのものには三あり。
軍の進むべからざるを知らずして、これに進めと謂(い)
い、軍の退くべからざるを知らずして、これに退けと謂
う。
これを軍を縻(び)すと謂う。
三軍の事を知らずして三軍の政を同じくすれば、すな
わち軍士は惑う。
三軍の権を知らずして三軍の任を同じくすれば、すな
わち軍士は疑う。
三軍すでに惑いかつ疑うときは、すなわち諸侯の難至
る。
これを軍を乱して勝を引くと謂う。

夫將者國之輔也
輔周則國必強
輔隙則國必弱
故君之所以患於軍者三
不知軍之不可以進、而謂之進、
不知軍之不可以退、而謂之退
是謂縻軍
不知三軍之事、而同三軍之政者、則軍士惑矣
不知三軍之權、而同三軍之任、則軍士疑矣
三軍既惑且疑、則諸侯之難至矣
是謂亂軍引勝

2011年7月16日土曜日

謀攻篇・敵を魅惑する

 だから戦争では、十割近くが味方になりそうなら囲い
込み、五割近くが味方になりそうなら強気で交渉し、敵
中に対立があり、意見がまとまりそうにないときは分断
させ、敵対するようなら武力を使い、こちらが劣勢なら
ば戦いを避けて味方のフリをする。
 このように一本調子の対応をするのではなく、強気に
出たり、下手に出たり、寛大なところを見せたりして敵
を魅惑して虜にする。

※一般的にこの文章は、「味方が十倍であれば敵を包
囲し、五倍であれば敵を攻撃し、倍であれば敵を分裂
させ、等しければ戦い、少なければ逃れ、勝ち目がなけ
れば戦わない」といった解釈がされているが、これでは
戦うことしか考えてないことになり、前記の文章を無視し
ている。(謀攻篇で記すことではない)
 謀略を優先すると言っているのだから、敵の状況によっ
て謀略や外交を駆使して柔軟に対応すると解釈したほ
うがいい。


ゆえに兵を用うるの法は、十なればすなわちこれを囲
み、五なればすなわちこれを攻め、倍すればすなわち
これを分かち、敵すれば、すなわちよくこれと戦い、少
なければすなわちよくこれを逃れ、若(し)かざればす
なわちよくこれを避(さ)く。
ゆえに小敵の堅は大敵の擒(きん)なり。

故用兵之法、十則圍之、五則攻之、倍則分之、
敵則能戰之、少則能逃之、不若則能避之
故小敵之堅、大敵之擒也

2011年7月9日土曜日

謀攻篇・謀略で優位に

 そのために、もっとも優先すべき行動は、謀略で優位
にたつことだ。
 それがだめなら外交で優位にたつことだ。
 それでもだめなら武力で優位にたつことだ。
 どうしてもだめなら城攻めをするしかない。
 城攻めをするのは、敵国民を味方にできないから全
滅させて、恨みを将来に残さないためだ。
 その城攻めには準備に時間がかかる。
 敵国民を全滅させるような攻撃だから、こちらの損害
も多くなる。
 だから戦争に慣れた者は、敵に戦争をしようとする気
を起こさせない。
 城を守ろうとする気を起こさせない。
 敵国の存続を長引かせない。
 自然にこちらの味方になれば得なようにしむける。
 だから損害がなく、得るものが多い。
 これが謀略の効力だ。

※豊臣秀吉は、難攻不落といわれた小田原城を攻めた
とき、大軍で城を包囲したが、攻める気はまったくなく、
天下はすでに掌握しているというパフォーマンスをして、
戦えば逆賊になることを暗に示した。そして内部分裂を
工作して、投降するようにしむけた。
 民衆の支持があったことが秀吉の謀略を有利にした。
 地震にしても、小規模な地震を起こすなどして、エネル
ギーを少しずつ放出させれば、大地震にはならないよう
な対策が将来はできるのではないだろうか。


ゆえに上兵は謀を伐(う)つ。
その次は交を伐つ。
その次は兵を伐つ。
その下は城を攻む。
城を攻むるの法はやむを得ざるがためなり。
櫓(ろ)・フンオンを修め、器械を具うること、三月しての
ちに成る。
キョインまた三月にしてのちに已(お)わる。
将その忿(いきどお)りに勝(た)えずしてこれに蟻附(ぎ
ふ)すれば、士を殺すこと三分の一にして、城の抜けざ
るは、これ攻の災いなり。
ゆえに善く兵を用うる者は、人の兵を屈するも、戦うに
あらざるなり。
人の城を抜くも、攻むるにあらざるなり。
人の国を毀(やぶ)るも、久しきにあらざるなり。
必ず全きをもって天下に争う。
ゆえに兵頓(つか)れずして利全くすべし。
これ謀攻の法なり。

故上兵伐謀
其次伐交
其次伐兵
其下攻城
攻城之法、爲不得已
修櫓フンオン、具器械、三月而後成
キョイン又三月而後已
將不勝其忿、而蟻附之、殺士三分之一、
而城不拔者、此攻之災也
故善用兵者、屈人之兵、而非戰也
拔人之城、而非攻也
毀人之國、而非久也
必以全爭於天下
故兵不頓、而利可全
此謀攻之法也

2011年7月2日土曜日

謀攻篇・自滅させる

 戦争では、敵国を自滅させるのがよく、戦って滅亡さ
せるのは最終手段だ。
 軍隊を自滅させるのがよく、戦って軍隊を撃破するの
は最終手段だ。
 遠征軍を自滅させるのがよく、遠征軍を撃破するの
は最終手段だ。
 兵士を自滅させるのがよく、兵士を殺すのは最終手
段だ。
 敵国民のこちらへの不満を自滅させるのがよく、敵
国民を屈服させるのは最終手段だ。
 このことから、むやみに戦って勝つことを目的にして
はいけない。
 戦いを避けて、敵国の兵士や国民をこちらの味方に
つけることを、最優先するべきだ。

※自滅させるのは、相手の弱い部分をついて弱体化
させ、消滅に導くことが必要で、それは力ずくではない
ということだ。
 荒波は消波ブロック で弱めることができ、強風は防
風林で弱めることができる。これ以上の強いものでも
永久に続くわけではなく、いづれは止む。それまで持ち
こたえるだけの備えをしておけばいい。
 モンゴルが大帝国を築いたのも、敵国を戦いで破っ
たのではなく、文化や風習を尊重して国民を味方につ
けることを優先し、それでも反発する国は挑発して誘
い出し、自軍を撤退すると見せかけて目的の場所まで
誘導して、少数の伏兵部隊で反撃して弱体化させて
いった。
 

孫子曰く、およそ兵を用うるの法は、国を全(まっと)う
するを上となし、国を破るはこれに次ぐ。
軍を全うするを上となし、軍を破るはこれに次ぐ。
旅を全うするを上となし、旅を破るはこれに次ぐ。
卒を全うするを上となし、卒を破るはこれに次ぐ。
伍を全うするを上となし、伍を破るはこれに次ぐ。
このゆえに、百戦百勝は善の善なるものにあらざるな
り。
戦わずして人の兵を屈するは善の善なるものなり。

孫子曰、凡用兵之法、全國爲上、破國次之
全軍爲上、破軍次之
全旅爲上、破旅次之
全卒爲上、破卒次之
全伍爲上、破伍次之
是故百戰百勝、非善之善者也
不戰而屈人之兵、善之善者也