2011年10月1日土曜日

虚実篇・無形の圧力

 敵の行きそうな場所に先に現れ、敵が味方にしてい
る者の場所にも行ってみる。
 遠征を難なく行うのは、行軍しているとは分からない
ように偽装や散開して人知れず行くからだ。
 攻めて必ず奪えるのは、危険な場所で、敵が攻めて
こないと思い、守っていない所を攻めるからだ。
 守って必ず防ぐのは、攻めると後で反撃があると思
わせるような後ろ盾を用意して守っているからだ。
 だから攻めるのが上手い者には、敵は守りようがな
い。
 守るのが上手い者には、敵は攻めようがない。
 細かく砕いていけば形は無くなる。
 神がかっていけば音も無くなる。
 だから敵の命を左右することができるのだ。

※この文章をそのまま解釈すれば「千里を遠征して苦
労しないのは、敵がいない場所を行軍するからだ。
 攻撃すれば必ず奪うのは、敵が守っていない場所を
攻撃するからだ。
 守って必ず防ぐのは、敵が攻めてこない場所を守る
からだ」と、当たり前すぎて、こんなに都合のいいよう
にできるとは思えない。
 虚実というのは敵に、目には見えないプレッシャーを
与え、戦闘意欲をなくさせること。
 そう解釈すれば、先手をうって行動したり、敵が味方
にしている者に会って交渉したり、敵の固定観念を打
ち破ったり、敵が恐れる相手を後ろ盾にしたりといった、
プレッシャーを細やかに繰り出し、手品のようにありえ
ないことを見せれば、こちらの思いのままになるといっ
た意味に受け取れる。
 石田三成は加藤清正らに暗殺されそうになった時、
暗殺の首謀者かもしれない徳川家康の邸宅に逃げ込
み、難を逃れた。
 幕末の薩長同盟など、本来ならできそうもないことが
できた時、相手に与えるダメージは大きい。
 坂本龍馬は、勝海舟を後ろ盾にしたことで、幕府は
手出しができなくなった。


その必ず趨(おもむ)く所に出で、その意(おも)わざる
所に趨く。
千里を行いて労れざるは、無人の地を行けばなり。
攻めて必ず取るは、その守らざる所を攻むればなり。
守りて必ず固きは、その攻めざる所を守ればなり。
ゆえに善く攻むる者には、敵、その守る所を知らず。
善く守る者には、敵、その攻むる所を知らず。
微なるかな微なるかな、無形に至る。
神なるかな神なるかな、無声に至る。
ゆえによく敵の司命をなす。


出其所不趨、趨其所不意
行千里而不勞者、行於無人之地也
攻而必取者、攻其所不守也
守而必固者、守其所不攻也
故善攻者、敵不知其所守
善守者、敵不知其所攻
微乎微乎、至於無形
神乎神乎、至於無聲
故能爲敵之司命