2011年11月19日土曜日

軍争篇・郷に入る

_だから共に戦う味方(他国など)の計画を尊重しない
者は、一緒に行動することはできない。
 地形の利用方法を理解できない者は、軍を有利に行
動させることができない。
 土地勘のある者を利用できなければ、地元(民衆)の
理解は得られない。
 そこで、戦争は計画の検討から始まり、有利であれば
行動し、共に戦う味方とつかず離れず変化に対応する
ことだ。
 そうするには、風邪のように流行を伝染させ、林靄
(リンアイ。林にたちこめるもや)のように思想を徐々に
浸透させ、火事のようにいたるところで民衆蜂起させ、
山里のように定住し、陰影のようにでしゃばらず、雷が
振動させるように短期間に実行する。
 民衆の団結が強い領地を懐柔するには、民衆を細
分化し、過疎地を発展させるには、利益を分配し、利
権があることを示して誘えば動く。
 その時々に応じた迂直の計を理解している者が勝
利する。
 これが、軍同士の利権争いのやり方だ。

※たとえ、敵国の領地を奪ったとしてもその領地の民
衆が受け入れなければ、いずれ領地を手放すことにな
る。
 同盟国と領地を分配するにしても良い地域が手に入
るとは限らない。
 それを有利にする方法をこの文章は説明しているの
であって、武田信玄で有名な「風林火山」の軍事行動と
解釈しては間違ってしまう。
 武田信玄は戦上手だったかもしれないが、目的はな
にも達成していない。敵の上杉謙信から塩を送られる
ようでは、無様としかいいようがない。
 間違った孫子の解釈の典型といっていいだろう。
 企業が未開拓の地域に進出する場合、他の地域で
流行していることなどを宣伝して注目させる。そのうえ
で試供品などを配布して、口コミなどを徐々に増やして
理解させる。
 要求が高まったところで、本格的に進出して、一気に
広める。ただし、流行はすぐに去るので、定番になるよ
うに質の低下やトラブルにならないように配慮する。
 まるで昔からそこにあるように馴染み深くする。そして
時々、イベントなどで注目を維持する。
 新しいものは拒否反応が強い、そこで民衆の性格な
どをタイプ別に細分化してターゲットを絞る。また、その
地域にすでにある企業などに製造委託して、自分たち
が直接、乗り込んでいかない。こうすることで、その地
域に利権があることを示せば、スムーズに受け入れら
れる。
 ようするに地産地消で、これを実践しているのがコカ・
コーラだ。
 だからコカ・コーラはどこの国でも、その国の産品にな
る。
 日本人はアメリカで流行っていると言えば、すぐに受
け入れる。また、何とか賞受賞と言えば、それが権威
がなくても良い物だと錯覚する。これほど飼い慣らしや
すい民族は他にはいないだろう。


ゆえに諸候の謀を知らざる者は、予め交わることあた
わず。
山林・険阻・沮沢(そたく)の形を知らざる者は、軍を行
(や)ることあたわず。
郷導を用いざる者は、地の利を得ることあたわず。
ゆえに兵は詐をもって立ち、利をもって動き、分合を
もって変をなすものなり。
ゆえにその疾きこと風のごとく、その徐(しず)かなるこ
と林のごとく、侵掠(しんりゃく)すること火のごとく、動か
ざること山のごとく、知り難きこと陰のごとく、動くこと雷
震のごとし。
郷を掠(かす)むるには衆を分かち、地を廓(ひろ)むる
には利を分かち、権を懸けて動く。
迂直の計を先知(せんち)する者は勝つ。
これ軍争の法なり。

故不知諸侯之謀者、不能豫交
不知山林險阻沮澤之形者、不能行軍
不用郷導者、不能得地利
故兵以詐立、以利動、以分合爲變者也
故其疾如風、其徐如林、侵掠如火、不動如山、
難知如陰、動如雷震
掠郷分衆、廓地分利、懸權而動
先知迂直之計者勝
此軍爭之法也