2011年8月6日土曜日

形篇・勝てそうもない態勢

 昔の戦争に慣れた者は、まずこちらが勝てそうもない
態勢を見せて誘い、敵が勝てると油断するのを待つ。
 こちらが勝てそうもない態勢を見せても勝ちを意識す
るのは敵しだいだ。
 だから戦争に慣れた者が勝てそうもない態勢にして
も、敵は勝てるとは思えなくなる。
 勝つと分かっても攻められない。
 こちらが勝てそうもない態勢(弱そう)にすると守るこ
とができる。
 こちらが勝てそうな態勢(強そう)にすると攻められる。
 守るのは少人数でできるが、攻めるのは大多数でし
なければならない。
 うまく守る者は本性を見せず、うまく攻める者は威嚇
する。
 だから無理をしなくても勝ちを得るのだ。

※この文章は一般的には「こちらが強固な守りの態勢
にして、敵の守りが崩れるのを待つ」と解釈されている
が、敵が攻めてこなければ戦争にならないし、敵の守
りが崩れるのを待っていては長期戦になる。
 第二次世界大戦で、アメリカは日本にハワイの真珠
湾を攻撃をさせて、大義名分を得ると同時に日本のお
ごりを増徴させた。
 赤ちゃんは弱く無防備だが、誰も殺そうとは思わない。
 強いものには敵が多いが弱いものには味方が多い。
 強さを維持するのは大変だが、弱さを維持するのは
普通にしていればいい。
 弱さを見せるほうが勇気がいる。


孫子曰く、昔の善く戦う者はまず勝つべからざるをなし
て、もって敵の勝つべきを待つ。
勝つべからざるは己にあるも、勝つべきは敵にあり。
ゆえに善く戦う者は、よく勝つべからざるをなすも、敵
をして勝つべからしむることあたわず。
ゆえに曰く、勝は知るべくして、なすべからず、と。
勝つべからざる者は守るなり。
勝つべき者は攻むるなり。
守るはすなわち足らざればなり、攻むるはすなわち余
りあればなり。
善く守る者は九地の下に蔵(かく)れ、善く攻むる者は
九天の上に動く。
ゆえによくみずから保ちて勝を全うするなり。

孫子曰、昔之善戰者、先爲不可勝、以待敵之可勝
不可勝在己、可勝在敵
故善戰者、能爲不可勝、不能使敵之可勝
故曰、勝可知、而不可爲
不可勝者、守也
可勝者、攻也
守則不足、攻則有餘
善守者、藏於九地之下、善攻者、動於九天之上
故能自保而全勝也